逗子の海が見渡せる丘の上に建つ神奈川県立近代美術館葉山館で開催中の上田義彦写真展「いつも世界は遠く、」に行ってきました。下は同館のウェブサイト掲載文です。
2025年7月19日 – 2025年11月3日 上田義彦 いつも世界は遠く、
上田義彦(うえだ・よしひこ/1957–)は、活動初期から自然や都市の風景、著名人のポートレイト、広告写真など幅広い分野で活躍を続けてきた写真家です。瞬間を捉える感性と卓越した技術で、時代とともに変化する作風でありながら一貫して普遍的な美を作品に込め、国内外で高い評価を得てきました。公立美術館で約20年ぶりの本展では、代表作や未発表の初期作品から最新作まで、自ら現像とプリントを手がけた約500点を通じ、その40年の軌跡を辿ります。
とにかくものすごい数の作品で、各フロアに一貫した明解なテーマを見つけることは難しく、ジャンルと撮影年を縦横に往来して彼の内に現れた作品をそこここに置いたのではないかと思いました。「ジャンル」というカテゴライズすることにつながる言葉を使うことは、しかし、彼の本意ではないでしょう。「・・・と思ったらシャッターを切る」 NHK-ETV「アートシーン」のインタービューでそうした趣旨の言葉がありました。写真展の動画では、彼は撮った後で写真を見てそこに何が写っているか考えることが大事と語っていました。いわゆる広告写真もアートとしての写真も区別することは難しいと思わせる彼の写真です。それはジャンルを越えてという言葉を超えた、あるいは、まったく異なる写真のあり様のように思いました。
「・・・と思ったら」という表現は誤解が生じるかもしれません。これまでテレビなどで見た彼の撮影の姿は慎重そのものに見えました。プラウベルマキナのファインダーを覗いて、たしか、蒼井優だったと思うのですが、静かに、じっと対峙して、ある瞬間にシャッターを切って次の瞬間には素早くフィルムを巻き上げてファインダーを覗き続けてシャッターを切る。微かな瞳の輝きをも見逃さない緊張感、緊迫感がそこにありました。「・・・」とは彼の日常のまなざしであり、気の休まることのない日々、刹那ではないのだろうか。撮影が終わってもその緊張感が続いていたと思いました。
作品のいくつかは額装がされていました。油絵の如くです。古めかしく燻したような金色の壮麗な彫りの額はかつて油絵といっしょに画廊や美術館の壁に掲げられていたものかもしれません。たしかに、今回の作品の一定数はまるで絵画のように目に映りました。「静物」はことのほか。そうか、何でもやればいい、何でもできるんだと思いました。写真を撮るという行為、それが広告であっても作品であっても、自分のまなざしを映し止める“だけ”なのだろうと思います。自分の世界を持つこと、そして持ち続けることのエネルギーが伝わる写真展でした。