2025/03/01

バレエと音楽~福田一雄と滝澤志野の論考から

 福田一雄は1931年生まれの94歳で現役を退いていると思いますが、彼の著書『バレエの情景』(音楽之友社 1984.11.1)を国立国会図書館のデジタルアーカイブで読み始めたらあまりに面白いので取り寄せることにしました。届いたのは40年も前の本でカバーの天の部分のしわがよったまま固くなっていたり全体が茶色になっていたりしましたが扉に著者のサインがあって目が点になりました。サインの日付は1984.11.4なので初刊時のものです。私はサイン本にこだわっていませんが手元に偶然届いた著者のサインを見ると当たり!と思ってしまいます。とくに今回はありとあらゆる音楽、とりわけバレエ音楽を弾き、指揮してきた著者の手によるサインです。しみじみと見ました。

この本はオーケストラピットから見たバレエの裏話など愉快なエピソードから始まってそれはそれで面白いのですが、バレエと音楽との関係についてのところはずっと疑問に思っていたことなのでたいへん興味深く読んでいます。後段の「ほんとうの作曲者はだれ?ー版についての考察」は数々のバレエの音楽が後世に作曲者以外の手によって改変や他の作曲者の楽曲が挿入されるなどの具体例が挙げられていてそのこと自体は前から知っていましたが改変の頻度や規模の多さと大きさに唖然としました。音楽を興行していくためにはワーグナーでさえも楽劇の中にバレエのシーンを追加して作曲したというエピソードもあります。「白鳥の湖」や「ジゼル」は何を言わんやです。そして、福田一雄はバレエと音楽との仲を取り持って演奏を続けてきたことがこの本からよくわかります。柔軟かつしたたかに音楽を奏してきたわけです。

先月、やはり共通するテーマで滝澤志野が「バレエチャンネル」に寄稿していてたいへん興味深く読みました。バレエの音楽といわゆるクラシック音楽との相違です。

【第57回】ウィーンのバレエピアニスト〜滝澤志野の音楽日記〜バレエに殉じることなく、寄り添うために(2025.02.20 滝澤 志野)より

バレエを知らなかった時代に愛していた音楽は懐かしく、でも当時と今とでは、聴こえ方が違うことにも気がついた。この音楽がバレエ作品になったらどうだろう、この演奏だと踊れるだろうか……等と考えてみたら、すべてが新鮮に響いてきて、いろんなイマジネーションが湧いてきた。ただひたすら楽譜に忠実に、作曲家の想いと自分の音楽を追求していたあの頃と、バレエに焦点を当て、楽譜を見ながらも踊りを見つめている今の自分は違う。

小澤征爾の「白鳥の湖」全曲盤を聴いたとき、管弦楽曲としての醍醐味はあふれるほどで堪能しましたがこれで踊れるのだろうかと考えてしまいました。バレエについていかほども知っているわけではないのにそんな素朴な疑問がよぎりました。実際のところは今もわかりませんが、その後、小澤征爾、シャルル・デュトワ、アンドレ・プレヴィン、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、ワレリー・ゲルギエフのCDを聴いてきてテンポや歌い方といったアコーギクやアーティキュレーションに大きなちがいがあることを知りました。それぞれにバレエとして演じ奏する舞台があるということなのだろうか。バレエピアニストの滝澤志野のコンサートで聴いたショパンは「クラシック音楽」としてのそれとはちがう印象がありましたが「音楽」としては何の違和感もなかったことが不思議でした。踊りと音楽のそれぞれの文脈といったものがスリリングに進行していくという点ではミュージック・ケアも同じだと考えています。興味は尽きません。

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