2024/04/14

文書管理

 今月から病弱特別支援学校小学部でフルタイムの講師として勤務しています。そこは私が定年退職のとき勤務していた学校です。実に6年ぶりでその間に入院する子どもへの教育支援が多岐にわたって改善されてきたことがわかってたいへん嬉しく思っています。そのひとつが入院中の高校生への支援です。病院内教室に高等部ができたことを知って体中の力が抜けたように安堵を覚えました。

大きな山を越えたのは平成27年(2015年)でした。文部科学省が平成25年度中の病気で欠席(病気療養中)の児童生徒の教育支援の状況を調査して結果がまとまって公表されたのが平成26年でした。そして、翌平成27年度には病気療養中の高校生を対象とした遠隔教育を可能とする文書が発出されました。「27文科初第289号 平成27年4月24日 学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行等について(通知)」です。初等中等教育局長名の文書です。この第289号文書は遠隔教育に道を開く画期的な文書でよく知られていますが、私が待っていたのは文部科学省初等中等教育局特別支援教育課発の平成27年5月20日付の「事務連絡」の一文でした。

3. 教育委員会における対応
 平成25年度中に、病気やけがによる入院により転学等する児童生徒や長期入院児童生 徒が在籍する学校は、全学校の1割前後を占めることが明らかになりました。
 どの学校においても、これらの児童生徒に対応する必要が生じる可能性があること、また、域内の長期入院児童生徒を含む病気療養児への教育環境の向上のためには特別支援学校(病弱)のセンター的機能の活用が有効であることに留意し、教育委員会においては、所管する学校に対し、病気療養児への適切な対応が行われるよう、指導・助言をお願いし ます
 特に、入院する児童生徒について特別支援学校(病弱) 等への転学措置が適当と判断さ れた場合には、入院前の在籍校及び入院先の病院等の所在地を所管する市町村及び都道府 県の教育委員会が連携を取りながら対応することが必要となります。その際、退院後の対応も含めて、病院等からの連絡に応じ、適切な対応をお願いします。
下線部分「域内の長期入院児童生徒を含む病気療養児への教育環境の向上のためには特別支援学校(病弱)のセンター的機能の活用が有効であることに留意し、教育委員会においては、所管する学校に対し、病気療養児への適切な対応が行われるよう、指導・助言をお願いし ます」は、病弱特別支援学校のセンター的機能を活用することを示すものです。この一文によって私の勤務校は通知から1か月余で院内教室を置く大学病院に入院する高校生への教育支援に向けて動き出しました。先生方の意識が高校生支援に向けて大きく動きました。ICTを活用した遠隔教育のような目立ったものではありませんが、先立つ第289号通知で留めおくのではなく「補足」せざるを得ないとの判断があっての「事務連絡」ではなかったのではないでしょうか。局長通知に書き込めなかった部分かもしれません。しかし、その「事務連絡」が教育委員会を通して下りてこなかったら私の勤務校は入院する高校生への支援に踏み出すことはできなかったと思っています。早期の対応は病弱教育校と文部科学省との直のパイプゆえの為せる業ではなかったかと。

本題です。この記事の見出しがどうして「文書管理」なのか。前述の平成27年5月20日付の特別支援教育課発出の「事務連絡」は、しかし、今、ネット上では私は見つけることができませんでした。当時は大阪府教育委員会がすぐさまPDFでウェブサイトにアップしていました。この文書も公文書です。国立国会図書館に収められているのかもしれませんがネットで検索をかけてもヒットしないのは昨今取り沙汰されている文書管理が徹底されていないがゆえなのでしょうか。今では歴史的文書というべきアーティクルです。時折メディアで目にするアメリカの公文書館や大学図書館の充実した光景はただただ羨ましい。進むべき道は過去から学ぶことで見定めることができるのではないか。私が明治からの教育史、ときには江戸時代の歴史を調べる理由もそこにあります。今年度の東京大学学部入学式の総長式辞には自分の位置、現在地を知ることの重要さにふれています。
ここに集まった新入生のみなさんが、「構造的差別」のいまどこに位置しているのかを知ることは、それぞれにとって最初の宿題かもしれません。構造を知る者は、同時に、その構造を変える力を持ちます。ぜひ、現在の社会構造をみんなで望ましい方向に変えていくにあたって、自らが持ちうる力を探っていただきたいと思います。
そのためにも一次資料の保存と管理が公の責務として徹底して取り組まれることを切に望むばかりです。

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