2024/09/23

北アルプスと信濃大町

 先々週末、北アルプスの唐松岳に行ってきました。八方池止まりで登頂までいかなかったのですが北アルプスの雄大かつ壮麗な山々を目の当たりにして、また、翌日訪れた大町山岳博物館で知った登山を巡る大町の歴史の密度の高さに目を奪われつつも満たされたものがありました。率直にすごい!と思いました。

前日の夜8時半に出発して黒菱駐車場に着いたのが午前2時でした。暗く細い林道を慎重に進んでこの先に何があるのだろうと思っていたら200台収容の駐車場はほぼ満車だったので驚きました。私もそのひとりですが山行に時間もお金も体力もかける人がこんなにもいるのかと。でも、八方池にいるとどんどん登山客が来て唐松岳の方向に登っていくその多さにはもっと驚くことになります。どうにか車を停めて外に出ると夜空は満点の星が輝いていました。

仮眠もままならないままリフトが動く午前5時が迫ってきたので支度をしてリフトに向かいました。日が昇り始める中でリフトに乗って後ろを振り向くと下に雲海が広がっているのがわかりました。雲は上に乗れそうなくらい分厚く見えました。リフトの乗り換えを待つ間に日の出を迎えてそれはそれはきれいでした。刻々と光が変わるので何枚も写真を撮ったつもりでしたが後で見返すとそんなにたくさん写真を撮ったわけではなくその風景に見とれていたのでしょう。日が昇ると白馬の山々がくっきりと見えて壮大でした。双眼鏡で見ると白山の山小屋に続く稜線に数人の登山客の姿がありました。急斜面の山肌や雪渓の表面の黒い筋も荒々しくて見入ってしまいました。私の技術と体力では近づくことすらできません。それでもただ見ているだけで満たされるものがありました。

2つ目のリフトを下りていよいよ登山となりました。きっと寒いだろうと初冬向けのウエアを用意したものの登り始めると日差しは強く流れる汗がメガネに付いてそれがとにかく煩わしい。八方池に着く頃には行く手にガスがかかることが多くなって池に映る山を見ることはできませんでした。また、時間的に登頂することも断念しました。それでも満たされるのは何だったのだろうと思います。

その日は白馬に泊まって8時間眠り続けました。翌日は爽快な気分で大町山岳博物館を訪れました。昼前、駐車場はほぼ満車でした。博物館に足を踏み入れるとさもあらんとすぐわかりました。順路一番の3階の窓から見えるはずの北アルプスの山々は中腹から上が雲で見えなかったものの南北に連なる山々の大きさはわかりました。大町の人たちはこの風景を見続けて暮らしているのだと
思うとその風景からもたらされるものの見方や考え方はきっと私にはすぐにはわからないものにちがいないと思いました。地質や岩石から始まって登山の歴史を物語る数々の展示はそれを示すものでした。ウェスタンに北アルプスを案内した上條嘉門次がウェスタンから贈られたと伝えられるピッケルなど貴重な収蔵品が展示してありました。これはただ事ではないと思いました。

私は高校のとき合唱組曲「山は祈る」を通して登山を考え始めました。大学に入ってからは山岳関係の本をよく読みました。新田次郎の小説や加藤文太郎の『単独行』などです。のめり込みました。しかし、ワンダーフォーゲル部に入っている友人の話を聞くと登山は自分にはとてもできるものではないと思い込んでしまいました。-10℃の冬山でシュラフにくるまって寝ること、岩場で20kgのリュックを背負って靴の先1cmを岩に置いて体重を支えることなど、そんな話を聞くと山で命を落とした「山は祈る」の世界がよみがえってくるのでした。自分には絶対できないししてはいけないことだと思いました。映画「アイガーサンクション」を観たときもそう思いました。

その後、退職後のことを考えるようになった五十代半ば、書店で平積みになっていた加藤則芳の『メインの森をめざして』(平凡社 2011)で欧米のロングトレイルの文化を知って私もいつかは山を歩きたいと考えるようになりました。山に入って自然や歴史を肌身で知って言語化することは私を惹きつけました。退職した翌年、知人が登山を始めると私も誘われて山に登るようになって今に至っています。三重県は鈴鹿山脈をはじめ登山に適した山がたくさんあります。その歴史もまた興味深くて山岳史などの本も集めるようになりました。そうした私のささやかな経験の延長線上で北アルプスの雄大かつ壮麗な姿と登山を巡る大町の歴史を知って圧倒されたわけです。大町山岳博物館を訪れた日は朝から北アルプスにガスがかかって昼過ぎになるとすっかり雲に覆われてしまいその全貌は見ることができませんでした。大間ににはこの先何度も訪れることになると思います。アルプスの山々を毎日仰ぎながらの暮らしはどんなものなのだろうかと興味津々です。

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